2020年 阿呆浪士

4.0
戸塚祥太   155分  演劇

町人・魚屋八から見た忠臣蔵×実際に脱盟した武士・田中貞四郎から見た忠臣蔵。

細かいところを気にしなければとても面白く見られた。けどどうしても細かい疑問点が沸いてしまうダメな観劇者。お笑い部分も沢山盛り込んできており、ギャグセンスと自分の笑いのツボがマッチしたため、結構笑わせて頂きました(*´▽`*)。

メインキャラが町人と武士であったため、町人の目に映る「元禄」と武士の目に映る「元禄」の、平和ゆえの虚しさや矛盾を上手く絡ませていた。武士に守られているわけでもないのに武家にヘコヘコしなければいけない世の中に疑問を抱く人間・武士としての生き方を見失ってしまった人間。一人一人、元禄を生きる人間として心の中にある蟠りを抱きながら、解決策となってしまう「討ち入り」に導かれていく様がちょっぴり虚しくもグッとくる。果たして赤穂事件で幸せになった人間はいたのか、と考えさせられる内容で、良作だったと思う。

主人公の八は根っからの江戸っ子なのだけど、役者が江戸っ子役が非常にお似合いで、「時代劇で見る江戸っ子」そのもので大変よかった。それと今回はお衣装もカツラもしっかり時代劇に寄せて来ていたから好印象だったし手抜き感が出ていなくて、ビジュアル公開で「観てみたい」という気持ちが一気に強くなった作品。更に良かったのは本物の浪曲師を作中の合間に出しているところ。忠臣蔵を見ている感が強くなるし、プロのため解説が非常に分かりやすくて初心者にも伝わりやすくする工夫がされていたと思う。

本編からズレるけど第二幕開始直後に何と三波春夫先生の「元禄名槍譜 俵星玄蕃」を浪曲師と八で歌うサプライズ。八、ジャニーズの方なのだけど見事に歌い切っていた。かなり難しい曲だから頑張って練習したんだろうなあ…一番驚いたし感動した一部分でした。尚本編に玄蕃や杉野は関係ありません😦 三波春夫先生の曲でペンライトが振られる時代が来ました。

一方田中貞四郎は本当の赤穂藩士だったからよくある展開だったけれど、脱盟側の忠臣蔵はものすごく悲しい部分があるから苦しかった。人間らしさが滲み出ていたけど、最後まで武士を捨てられずにいた儚い人だった。終わり方は泣けたけどキレイだった。

全体的に良作だったけれど、細かい所はどうしても気になる内容だった。八(その他二十数名の町人や無関係の武士)が討ち入りに参加するという時点で締め括りはどうなるか気にしていたけど、理由付けがなあ。たまに「別人が討ち入っていました~!」という内容の作品は出てくるけど(例えば元禄繚乱の寺坂やChuSinGura46+1の寺坂など)、実際に討ち入った本当の四十七士に少し配慮した描き方はしてほしいなあ、と。八は横川勘平として、スカピンという浪人は間新六として討ち入っており、本当の横川さんや新六くんは脱盟したことになっている。スカピンが本当に腹を掻っ捌いたと言って驚かせていたけどこれは本当の新六くんのエピソードを持ってきている。成程だから新六くんを脱盟者にしたのか、上手い使い方をしたなあ、とは思ったけれど、実際の彼らを思うと少し残念な気もしてしまう。別人討ち入りや吉良替え玉作品の難しいところかなあと思う。それに横川さんとして討ち入ったなら最終的に水野家での切腹なのに「細川家にいる」と言っているし、それくらいは水野家と言っても構わないのではないかと、普通の人は気にしない部分まで気にしてしまった。あと勘平さんを「かんぺい」ではなく「かんべい」と言っていたので聞くだけだと「勘兵衛」と書くのかと勘違いするな。

それから内蔵助の子に16歳の娘「すず」がいて、主税の存在を考えると色々と矛盾が発生してしまうなあと。最終的にすずは無関係な者を討ち入りの仲間に加えてしまう、やってはならぬ行為をするので敢えてここは架空の人物を持ってきたのかなあなんて後になって思い返すのだけど、何とかして主税を活かせなかったのか。その分四十七士の出番がかなり減ったから物足りなさもあった😔。田中貞四郎は良かったのに~!本当の四十七士の出番が少なかったけど、「赤穂浪士の決めポーズ」がかわいかったりやっさんの襷だけ赤色だったりしたので許します。

これはおまけ程度の話なのだけど野菜売りの婆の喋り方が「だっぺ」口調だったけど使い方が間違っていたので「だっぺ」県民として意見しておきます、「~するっぺ」・「〜やるっぺ」とは言いません!「すっぺ」・「やっぺ」です!(笑)