1989年 大忠臣蔵

2.0
松本幸四郎  720分  TVドラマ

原作は吉良側家臣や赤穂側の脱盟者を描くのが上手い森村氏の「忠臣蔵」。

12時間では足りなかったのか、吉良側家臣(山吉さん)に注目してばかりだと本来の「忠臣蔵さ」が損なわれてしまうからなのか、「原作の良さ」は再現できていないように感じる。12時間見続けるならば本を読んだ方が面白さは感じられると思う。原作ファンのため期待していただけにちょっと残念だった。

原作は山吉さんが徐々に敵の大石さんに惹かれていく様子が大変素晴らしいのだけど、この良さがうまく表現できず、何だか突然大石さんを守る謎の人物に変身したような不思議な立ち位置になっていた。突然敵を守りだした理由が伝わらない。少しではあるけど彼の色恋を描 く作品なんて他に無いからとても貴重で吉良側に感情移入できる数少ない作品。でもそれもまた突拍子もない感じでちょっと微妙。

だが赤穂側の描き方は大変良かったと思う。脱盟者への注目点も良いし、儚く散る様が涙を誘う。特に最後の脱盟者・毛利さんの最期に、彼が幻覚を見るシーン。これまで脱盟してきた田中さんや高田さん・萱野さんや自分自身が「白装束」を着て吉良邸に討ち入るシーンは泣けた。こういった表現も珍しく感じられる。冨森さんの子煩悩な逸話を元に親子の「鶴」の凧揚げシーンを入れてきたところも新鮮で感動する。お預かりシーンで46人がそれぞれ別れの挨拶をするのも普通はあまり描かないがここをしっかり「泣く場面」として描いている。不破さんと冨森さんの 別れの仕方がものすごく好き。よい。

しかし個人的に一番やっちゃダメだと思う描き方が1点あり、これだけで評価がガクンと下がってしまった。それは「山吉さんが討ち入りで死ぬ」こと。これはダメでしょう…!作る側としてはここできれいに死んでくれた方が絵になるのかもしれないけど、彼はここで死なせたらまずいと思うのだけど…。史実でも原作でも凄まじい戦い方をして生き延びるのだしここをアレンジしてしまったのが一番残念。飽くまでも時代劇なのだから史実にはないことを描くなどして潤色するのは当たり前のことだけど本来あと50年生きる人を人生の通過点で死なせてしまうのはどうかと思う。それで何事もなく史実通り吉良左兵衛さまが諏訪に流されていくシーンを入れるのもモヤモヤする。そして最初の方の山吉さんの格好が時代劇っぽくなくてこれもモヤモヤした。元禄武士らしからぬ傾奇者みたいな髪型で登場・果てしなくズボンに近い軽衫にマント着用…何を見ているのだろうと冷静になってしまうくらい違和感たっぷり。後半はしっかり普通の馬乗り袴を身につけて月代はないけど結っていたから気にならなくはなったけど。