「スローな武士にしてくれ」、「ライジング若冲」などを手掛けた源孝志氏による中村仲蔵物語。カタカタ語が好きらしい。現役歌舞伎役者がたくさん出てくるため、役者面でも楽しい作品(尾上松也くん、最近顔芸の達人になりつつある…笑)。勘九郎・七之助兄弟の絡みにオタク心をくすぐられる、、、いじめシーンが壮絶で、海老蔵版よりリアル。突如入るユルいギャグなども、くすりとする内容になっている。個人的に。手短に、テンポよく簡潔に解説なども入るから、大変入り込みやすい現代らしい作り。
前半のラストで謎の藤原竜也侍に、「美談に仕立て上げて侍の生き方を窮屈にさせている忠臣蔵が大っ嫌いだ」と言わせて終わるのは、今後の展開を知っている人が見るとちょっぴり皮肉に聞こえる。竜也侍の出番は前半後半で二度あるけれど中々痺れる。ボロボロの姿で酒を飲み干す姿がいい。こりゃあ仲蔵も閃いてしまう。
当時を再現した芝居小屋に臨場感があって、一度でいいからここで、全段通しで観たいな~!と思ってしまう。誰もいない夜の芝居小屋の、ライトの当たり具合(月明かりでしょうな)なんかも綺麗に映していて、「ああ、行きたい、観たい」欲が増す。嫌がらせ台詞、「何も全部浄瑠璃の通りやらなくたっていい」もさり気ないけど、二つに違いがあることを気付かせるようないい台詞だったようにも思う。
見せ場となる「元・弁当幕、新・五段目」の初披露は観客と一緒に固唾を飲んで見守ってしまった。今後の仲蔵を知らない、弁当を食べていた江戸の人々のリアクションが非常に気持ち良い。視聴者(特に仲蔵物語を知る者)はこれが「成功」となるのが分かっているからこそ、とても爽快だった。いじめは陰湿だし容赦なく描いてはいたのだけれど、最後には皆で仲蔵を祝うなどしていて、「成敗」がなかった。「千と千尋の神隠し」のような、根っからの悪役がいない穏やかな時代劇になっていた。中だるみもなく、飽きが来なかったため高評価!