1957年 大忠臣蔵

5.0
市川猿之助(初代市川猿翁)  155分  映画

「仮名手本忠臣蔵」に基づいた映画。そのため歌舞伎役者も沢山ご出演なさっている。自ずと親子共演となり豪華なキャストになるので目の保養になる。
前半は凡そ四段目~九段目、後半は「大石東下り」と「南部坂雪の別れ」と、仮名手本忠臣蔵と義士伝がミックスされたハッピーセットになっております。役名も神崎さんなんかは芝居上の「千崎」として出てくる。飽くまでも文楽・歌舞伎がメインのお話なので、安兵衛さんや吉田さんなんかは大評定の時にちらりと出るだけ。何故か片岡さんは最後も出てくる。


とりわけ今でも頻繁にかかる五・六段目「お軽と勘平」に焦点を置いて描かれている。千崎or不破(この場合、千崎)に出会う場面で、すでに二人侍になっているようで、お供に唯七さんもいる。茶屋の奥で千崎に相談をしている勘平の様子を伺いに来た唯七さんに「おぬしは向こうで見張っておれ」と言って追い返す千崎さんが面白い。一瞬顔を出した唯七さんが数秒で戻っていく必要性を感じない場面がツボ(笑)。
また、場面転換を増やせる映画だからこそ分かりやすくなっている点として、千崎と武林に定九郎の死骸を見つけさせて「定九郎は鉄砲に撃たれて死んだ」ことを認識させている。だから五段目の最期、与市兵衛の傷を直ぐに検め、刀傷ということに気づかせて「こりゃ勘平 早まったことを いたしたなぁ」をテンポよく済ませる。

七段目もまたきれいに再現しているし、この時の團子さん(猿翁さん)が今の團子さんそっくりでビックリ。「錆びたりな、赤鰯」など、芝居上の台詞が使われるのも楽しい。「小浪」という主税の彼女自体は時代劇では比較的多く出てくるけど九段目自体は頻繁にはかからないので、この場面も再現されていて嬉しい。

九段目が終わったら突然「義士伝」としての忠臣蔵に切り替わる。「大石東下り」では珍しく、大石は「垣見五郎兵衛」に化けているのに問い質す人は本人ではなく、「立花左近」。グッと顔を見合わせる無言の数秒間、かっこいいねー!
ここで片岡さんがまた出て来て、吉良邸に偵察に行くも、捕まる。ここでやたらと赤穂に味方してくれる世にも珍しい清水君が登場する。討ち入り中に片岡さんと鉢合わせして「やっぱりね😉」となり渡り合う。討ち入り前に敵同士で出会う脚本は個人的に大好きな設定でございます。ありがとうございます🙏「おひきくだされ」と清水君と渡り合いたくない片岡さんと、「羨ましいぞ」と、「武士の面目を立てろ」と立ち向かう切ない二人の場面が痺れる。

ちょっと珍しい作品なだけあってか、締めも現代の泉岳寺、仮名手本忠臣蔵の絵看板・台本で終わる。

1962年、この作品を基に以下の二本立てで再公開されています。
前編「大石東下り」までを再編集して「假名手本忠臣蔵
後編 南部坂雪の別れ以降を再編集しながらオリジナルの物語を付け加えて「義士始末記